福岡地方裁判所 昭和42年(行ク)1号 決定 1967年3月16日
申立人 昭和重工株式会社
被申立人 福岡国税局長
訴訟代理人 斉藤健 外三名
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一、申立の趣旨
被申立人が昭和四二年三月七日午前一〇時申立人所有の長崎造船所工場財団物件に対して行つた公売は、申立人被申立人間の福岡地方裁判所昭和四二年(行ウ)第九号賦課決定処分取消請求事件の判決あるまでこれが執行を停止する。
二、申立の理由の要旨
1 被申立人は申立人所有の申立の趣旨記載の長崎県西彼杵郡香焼町所在物件(以下本件公売物件という。)に対し別紙滞納にかかる国税に基づき公売に付したうえ昭和四二年三月七日売却決定をなした。
2 然しながら、右公売処分は不存在の税額を根拠としてなされた違法かつ不当のものである。すなわち
(1) 公売通知書掲記の本税金二九、五九四、三一八円に関して被申立人は昭和三〇年一二月二一日申立人所有の製材用機械等を当時その時価は金四三、二〇〇、〇〇〇円であつたにもかかわらず公売のため保管中随意契約により金二、一六〇、〇〇〇円の破格に安い価額で売却し、その代金のうち金二一〇、〇〇〇円を申立人の滞納税金に充当したにすぎない。当時これが正当価額で処分されていたならば前記本税は即刻消滅し、加算税滞納税および公売手数料は生ぜず従つて申立人は前記公売処分を受ける理由はなかつた。
(2) 本件公売処分は申立人の滞納税金を著しく超過した財産の差押および公売を行つたものである。すなわち、本件公売物件中には一二万トン・ドツク一基外ドツク四基その他土地建物機械類等の全部を含み、ドツク等の時価は莫大なる金額に上ることは勿論、土地についてもその坪当り単価を金四、〇〇〇円と評価していることは香焼島ど本土間の埋立地のそれが金二〇、〇〇〇円であるのに対して過少評価であり、滞納税額を著しく超過して申立人の財産の差押および公売を行つたことになる。
(3) 被申立人は申立人の公売物件を著しく低廉な価額で評価している。すなわち本件工場財団は前記のごとく名大なる価額の財産であるにもかかわらず財団全部の評価額は金七六一、〇〇〇、〇〇〇円にすぎない。
3 ところで右公売の執行は目前に迫つており、若しこれが実行されるならば申立人の破る損害は測り知るべからざるのみならず、延いては申立人の事業継続をも不能ならしめる虞れがあり、申立人は前記公売の執行停止を求める緊急の必要がある。
のみならず、造船業を主体とする申立人においては近来諸外国より造船注文の引合頻々として起り、とりわけフイリツピンよりは一四、〇〇〇重量トンの貨物船(一隻当り船価米貨二、八〇〇、〇〇〇ドル)四八隻の注文に関する商談成立し、これだけでも尨大な仕事となるが、他方国内的にも注文があり、これら諸注文を実行するには本件公売物件を必要とし、若し本件公売が執行されるならば申立人は回復困難な損害を受け延いては申立人会社事業の蹉跋を招き会社破産の憂いあり、従業員全体の糊口の途を塞ぐにいたるものである。
4 よつて申立人は回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるので本件公売の執行停止を求める。
三、当裁判所の判断
本件公売処分の経過について見るに、被申立人提出にかかる疏乙第四(公売公告)、第八(不動産等の最高価申込者決定通知書)、第九(売却決定通知書)、第一〇(買受代金納付書)、第一一(公売処分による登記嘱託書)各号証によれば、昭和四二年一月二三日本件公売物件について国税徴収法所定の公売公告をし、同年二月二八日公売を実施し、申立外三菱重工業株式会社が買受申出価額金七六一、〇〇〇、〇〇〇円で最高価申込者となり、同年三月七日右最高価申込者を買受人として売却決定をし右申立外会社(以下買受会社という。)が同日買受代金を納付したこと、被申立人は同月九日長崎地方法務局に対し本件公売物件の公売処分による所有権移転等の登記嘱託をしたこと、をうかがうことができる。右事実によれば買受会社の買受代金納付により本件公売物件の所有権は同会社に移転し、公売処分の執行のうち未だ完了していないのは被申立人において国税徴収法の定めるところにより換価代金の配当手続をすることのみである。しかして被申立人による右配当手続の実行により申立人が回復困難な損害を受けるもりとは認めがたい。けだし、申立人の本案において求むるところは本件公売の基礎になつた租税賦課決定処分の取消しであつて、終局的には本件公売物件の所有権の帰属を主張するものと解せられるところ、換価代金の配当は所有権の帰属には関係なく、かつこれに対しては申立人において換価代金等の交付期日までに配当計算書に対する異議の申出によつて救済をうけうることができるのである。しかして他に回復困難な損害を生ぜしめることについての疏明のない本件においては本件公売処分の執行停止を求むる緊急の必要性があるものと見ることはできない。
以上の理由により、本件申立は執行停止の要件を具備しておらず理由のないものであるからその余の点についての判断をするまでもなく、これを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 江崎弥 松信尚章 斎藤清六)
別紙<省略>